初冬の思い
胃癌の摘出手術を行ってもうすぐ5年目になる。「再発」を考えると不安に押し潰されそうになりながら、入院した日を今も昨日のことのように思い出す。全摘手術だ。
麻酔から覚めた時、朝なのか夜なのかさえ分らない時空の中で、腹部に違和感を感じながらもうろうとする意識を必死に覚醒させようと、誰かに話しかけようとするが声が出ない。尿道に管が刺さっていて水道の蛇口のようなものが管の先につながっていた。身動きが取れないのである。
麻酔のせいだろうか幻覚をしばし見る。現実なのか夢の世界なのか境界線がわからない。
が、状況は映画を見ているように良く判る不思議な感覚だ。
うっすらとした記憶から、あれは夜明け前の静まりかえった病棟だと思う。麻酔の中の浅い眠りから覚めると、採血のため巡回するワゴンの音が遠くに聞こえだした。そして病棟の蛍光灯がいっせいに点灯したかと思えば、洗面所から水の流れる音も聞こえだした。やはり朝なんだろうと体が反応する。
やがて運ばれてきた朝ごはんの「三分粥」。左手に嵌められた白いリストバンドを眺めながら、決しておいしいとは言えない粥をすすりながら、命の代償は何かを考えなければならない状況を味わう羽目になった。
・・・・・いまだに再発が怖い。